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【2025/04/08 01:25 】 |
新樹の杜 

続く…かも。





つづき




新樹の杜  第一話 狸


僕は田舎に住んでいる。朝は五時には起きて読経に勤しみ、釜戸でご飯を炊く。
薪が足りなったら割っておく。その間にお母さんは庭を掃き、お父さんは神社にお供えをする。
 学校には七時には出ないと九時の授業開始には間に合わない。SHRは捨てた。
 朝は山を降りるだけだから楽だが、帰りは山を登らないとならないから余計に辛い。
高校生だからバイクの免許くらい欲しいが、筆記試験で落ち続けている。

 もう一度言う。僕は田舎に住んでいる。しかも折り紙付きのあほである。
 
だから今日も免許試験に落ちた恨みで無理矢理自転車に付けたモーターで、時速四十Kmを出しながら高校に行く。

 初夏の今は目一杯に成長した木葉が、その隙間から日光が染み込むように入ってくる。まだ風は冷たくて清々しい。


…どおぉっ どおぉっ どおぉっ…

 後ろから、この清々しさを邪魔してくる奴がいる。
「ピンクー ピンクー ピンクー。」
そう叫ぶのは僕と近所の葉子だ。僕が彼女にピンクと呼ばれるようになったのは、それは深い訳がある。
と、いうのも彼女は色白・黒長の髪型で何でも暗い色を好み周りからは、実際はそうでもないのに、取っ付きにくいと言われていた。
だから僕がその印象を少しでも和らげてあげようと去年の冬に誕生日プレゼントとして、マフラーをあげた。
 そこまでは幼なじみの優しさ。だったが、そのマフラーの色がオールショッキングピンクだったのがいけなかった。
 周囲から彼女は馬鹿にされ、それが飛び火して僕と彼女が付き合っていると噂され、最終的には僕のあだ名がピンクになった。

 もう一度だけ言わせてほしい。僕は田舎に住んで…僕は田舎者だ。しかも折り紙付きのあほである。
そして驚く程センスがない。

「おはよ、紫胡。今日もチャリで頑張っているね。」
「おはよ。」
 こいつは僕が免許試験に落ち続けている事を馬鹿にする。悔しいけど事実だからしょうがない。
しかも彼女は4月生まれでバイクの免許を一発で取得し、悠々自適な生活を手にしている。

…どおぉっ どおぉっ どおぉっ…

「あのさ、バイクはいいんだけどその音、どうにかならないの?」
「なりません。だってお洒落だもぉーんっ。」
「はぁ。」
 彼女のバイク、正確には彼女の家に眠っていた彼女の祖父のバイクは、二昔前くらいのオートバイだ。古いから錆びてはいるし燃費は悪いし音もうるさい。
 が、彼女は中学時代の友達から「今はレトロポップが流行りなのだよ。」と言われ、高校に行ったらお洒落に生活しようと決意し、友達に言われたレトロポップを実践しているらしい。

 葉子にはお洒落のおの字もない。完全にレトロポップを履き違えている。
でも皆、面白いからダサいとは言わない。


 右に緩く続くカーブを進んでいると、山の下の方にぽっかりと池が出てきた。夜叉池だ。
夜叉池はその昔、コノハナサクヤビメが自身の花を育てる為に地下から湧かせた水だとか言われている。
 それを見て僕は、不思議な事を思い出した。それは昨日夢の中で女の人が僕を待っていた。
女の人は光と木々に囲まれて湖の上に立ち、口に微笑みを浮かべながら「助けておくれ。」と呟くのだ。女の人の近くまで歩いて僕ははっと我に返り、その人が人間でない事に気付く。そして「僕には何にも出来ない!」と叫びながら一目散に逃げるのだ。そこで目を覚ました。そんな事を思い出した。
夢だったからよく分からなかったが、湖だと思った場所は何だかこの夜叉池のような池だった気がする。
 夜叉池を過ぎた頃葉子が
「あたし、昨日変な夢を見たの。」
とボソッと言った。
ギクリとした僕だがすぐに
「どんな夢?」
と聞くと
「どんなって、女の人に「助けておくれ。」って言われるのだけど、その人が人間じゃない事に気付いて「何にも出来ません。」って言ってあたしは逃げるの。」
「…。」
「そんな事思い出していたら、あの女の人がいたのは夜叉池みたいな所だったなぁって。…どうかしたの?」
「うん、あのさ。その夢、僕も見た。」
「ふぅーん。じゃあ、気をつけた方がいいかもね。」
「うん。」
 この葉子の対応は正しい。僕達には共通点がある。それは、見えない物を見る力だ。
僕達は幼い頃から幽霊は勿論の事、もののけや妖怪が見えた。
僕の家が神社だったり、彼女がその遠縁だったりする為か、でも何故か僕達二人だけがそういう物を見てきた。
 で、こういう場合、たいてい良い事は起こらない、が何も起こらない事もない。
夜叉池を通り過ぎる時の見える人独特の、あのざわざわ感は本物だ。


…どぉーん どぉーん どんっ…

 後ろの方から何か、とてつもない物が歩いてくる音がした。
「どーする?」
と葉子に言われた僕は目配せをして、恐る恐る振り返った。
 一つ目の巨人兵みたいな奴が木をへし折りながら僕達の方目掛けて走っている。目が合った。
 そいつはこの世の物とは思えないくらいえらく低い声で
「みぃーつけた。」
と、言って笑顔になった。口角が目を突き破りそうな程上がった。


そうだった、こいつはこの世のものじゃない。

 もう一度僕達は目配せをした。無言だったが、目が逃げようと叫んでいた。前を向き直して一斉に全力を出した。
でも自転車とバイクは違う。僕はMAX時速40㌔。葉子は軽く100㌔を出している。
みるみるうちに差が広がっていく。
「ちょっと待った、葉子おぉぉ!」
「待てる訳ないだろがあぁぁぁ!」
 先程の冷静なふぅーん。を返してほしい。
「頼む!10秒だけ!!」
「はぁ!?…チェッ。」
 完全に舌打ちしたが止まってくれた。
本気で僕を置いて逃げる気でいたらしく、止まった時は相当な急ブレーキをかけたのでコンクリートの道路が少し黒く焦げた。
 僕は自転車を畑に投げ捨ててバイクの後ろに飛び乗った。
乗った途端にエンジンが吹き出して、また100㌔に戻る。
僕は飛ばされそうになりながらも、必死に葉子に掴まった。
奴はそんな事もお構いなしに、相変わらず低い声で
「待ってよぉー。」
と追い掛けて来る。
「紫胡!」
「分かっている!」
 僕は葉子の声を合図にするように鞄の中からペットボトルを取り出して、その中の液体を自分に頭からかけた。それから葉子にかけてバイクにもかけた。それはお清めの効果がある酒と塩だ。
「これで最後だからな!」
「今日谷崎先生から分けて貰おう。」
「おぅ!」

 巨人兵はというと
「あれ、あれれぇ。おかしいなぁ。見えなくなっちゃったぁ。」
と言いながら立ち止まってしまった。いや、立ち止まってくれた。
奴にとってみればあと数歩で届く相手が突然目の前から消えたのだ。そりゃ焦る。
 おかげで僕達は酒臭くなりながらも学校に着いた。そして久々に僕はSHRに間に合った。


 葉子はダサいが賢い。酒臭くなった自分を制汗スプレーと香水でごまかしていつも通りに振る舞った。
 能のない僕は酒でびしょびしょになったまま教教室に入り、誰一人として僕にまともな目を向けてくれなかった。
 口パクで葉子に「ばぁーか。」と言われたのがグサッと刺さった。放課後になる頃にはショッキングピンク程の速さで僕のあだ名が酒臭いになっていた。
 
僕達は朝言った通りに谷崎先生の所に言った。谷崎先生はいつも通り旧校舎の理科室にいた。
教室に入るとすぐに言った。
「来たな、葉子さんと酒臭い。」
グサッグサッと来たが我慢して
「いつものを下さい。」
と酒臭いの「さ」くらいのくい気味で言った。

 この谷崎先生は話せば良い理科の先生なのだが、眼鏡が何故だが知らないがいつも反射しており、そのせいで皆から不気味だと言われ孤立している。
しかも昔理科の実験に失敗したとかで上手く顔の筋肉を動かせなくなっていて、それが余計に怖い。
 でも案外気の弱い人だから、職員室に居場所がなくなるとすぐに旧校舎へ荷物を運んだ。
先生いわく此の場所はぼろくて、かびていて自分にぴったりなのだとか。

「君達はやっぱり厄介な物に遭う率が高いな。
そろそろ自分達で作ったらどうだ?出雲の物は強力だが、その分値がはる。自分の護身用に作るがもう精一杯だよ。」
 谷崎先生が戸棚の奥の方から瓶のボトルを二つ取り出した。
「先生、じゃあ、これで最後!この次からは僕達で作るから。」
「作り方教えて!」
僕達はそう言って、谷崎先生の所へ駆け寄った。
「うむ、よかろう。」
先生はこの台詞を待っていたようだった。

 
谷崎先生は数少ない僕達の仲間だ。先生は生れつきではないがもののけの類を見る力がある。
先生が僕くらいの年の時に好奇心だけで霊を呼び寄せる呪いをした所、実験に失敗して顔の筋肉が動かしにくくなってしまった。
先生によると顔の筋肉の代償に見える力が手に入ったのだとか。霊もおかしな所を奪ったものだ。
 で、僕達が入学してすぐに先生は僕達もそういったものが見えると知り、此処へ呼び出して護身用のあれを作ってくれるようになった。

 そのあれとは所謂お清めで代表的なもの。酒と塩だ。
酒の中に少量の塩を混ぜ三人の気と力の1番強い僕の髪の毛を1㌢程入れる。
これで完成なのだが、酒と塩にこだわりがある。この二つは谷崎先生が出雲の友達から買っているのだ。
友達といっても人間ではないが。最近不景気という事もあり値上げしたらしい。皆結構一杯一杯だ。


…どぉーん どぉーん どんっ…

 今朝の巨人兵の足音がまた聞こえてきた。

「…!」
「ほほぅ、酒の力も切れたようだね。こいつは中々の大物だ。恐らく懲らしめない限りずっと追ってくるよ。」
「…ですよねぇー。」
葉子とハモった。
「とりあえず、外へ出よう!」
 僕のこの掛け声に三人はバタバタと上履きのままグランドにでた。
 部活も終わったらしく外には一人だけいた。グランドのど真ん中に坂口が突っ立っていた。
「坂口!まだ帰ってなかったのか!?」
と僕が叫ぶと
「あんな巨人兵に外をうろちょろされてたら、帰れる訳ないだろ!」
と怒鳴られた。坂口も仲間だ。生れつき見える。坂口が続けて言った。
「どうせまた紫胡が変な奴連れて来たのだろ、早くどうにかしろよ。」
「…どうにかと言われても…。てか、今回も僕だけじゃなくて葉子も関わっているからな!」
僕と坂口はいつものようにいがみ合っていた所
「坂口君!!」
と谷崎先生が突然入ってきた。
「君は野球部だったな。ちょっと協力してほしいんだが。」


  *   *   *   *   *



「よし、これでいこう。」
 また僕の掛け声に、今度は三人がそれぞれ散らばった。


谷崎先生の作戦がスタートした。
まず坂口が五ヶ所に石を置き、葉子がさっき作ったばかり酒をそこに沿ってまいた。
そのまま四人を円で囲み結界を貼った。

 巨人兵は相変わらずその辺をうろちょろしている。
「うし、投げるか。」
 坂口はそう言うと、ポケットから野球ボールを取り出し、思い切り巨人兵に向かって投げた。
そして結界から一歩外へ出ると
「そこの巨人兵、どけぇ!俺の帰りを邪魔するなやぁ!!」
と叫び五ヶ所の石で囲まれた所の真ん中へ行った。あいつ、切実なのだなと暖かい気持ちで思った。

「痛。ひど。お前、許さない。」
 巨人兵は石に気付たらしく、坂口の気持ちなんかお構いなしに、どしん、どしんといいながら、坂口の方へと走った。家を踏み潰し道路を陥没させながら息を切らしてグランドの中にまで侵入した。
「いたぁ。お前、殺す。」
 石で囲まれた中へ右足が入った。
「紫胡、今だぁっ!!」
坂口が叫んだ。その途端
「はぁっ!」
と叫んだ僕は、手に書いた五芒星を地面に押し付けた。坂口は寸前の所で転びながら石から離れた。
 すると青白い柱のような物が石に沿って空高くそびえ立ち、巨人兵がみるみるうちに小さい凝縮された黒い塊のようになって落ちた。
「…終わった、よね?」
聞いといて葉子は誰の返事も待たずに、坂口のもとへと走った。その後に続いて僕達も走った。


「坂口、大丈夫?」
転がったままの坂口を葉子が起こすと坂口が顔を反らしながら言った。
「こいつ、狸だ。俺達こんな奴に苦労していたのだ。」
何だか悔しそうだった。いつも楽しそうな坂口が、こんな顔をしているのを見たのは初めてだった。
「あら、狸さん。どうしてこんな事をしたのかしら。」


葉子はダサいが賢い。が、あほである。

 狸は何にも言わずに森へ逃げて帰った。僕と葉子の住む新樹の杜へ。
 四人でそれをただ見つめていた。

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【2011/09/01 19:14 】 | 小説 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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